少し日が経ちましたが、去る7月13日、徳善義和牧師を説教者としてお招きした礼拝後に、むさしの教会の施設検討への参考として、お話をして頂きました。題して「牧師の仕事、牧師の生活、牧師の住居」。大きな視野の中で問題を捉えた重要なメッセージでした。是非、多くの方々に伝えたく、以下に要約を掲載いたしました。(文責:土門、市吉)
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はじめに
これからの話の中で断定的に話すことがあっても、それを押し付けようとしているのではないことを初めにお断りしたい。これまでの牧師像
昔は、桶屋、豆腐屋など、一人の人間が、原材料から完成品まで手作りしていた。24時間が仕事であり、職住が一緒だった。その後、色々なものが機械化され、分業化され、職住一緒はほとんど無くなった。数少ない例外として、交番のお巡りさんと開業医がある(ただし、開業医も自宅とクリニックを分けるようになってきている)。そして宗教人(お坊さん、神官、神父・牧師)がある。宗教法人の専従者は、信者一人一人の生まれてから死ぬまでに関係する、そして、24時間生活している信者さんのために存在するという要素はまだ残っている。(そのこともあり、牧師館は税法上、宗教活動上、不可欠として、登録税、固定資産税などの税金が掛からない。)
しかし、他の職業が変って来ている中で、牧師の場合にも職住を区別するということが、傾向として世界的に起きつつある。国によって事情は異なり、米国では変化が激しく、教会に事務所を置いて、専従ないしパートの事務員を雇うこと多い。ドイツにもその傾向はあるが、数百年前からの住居があるため、変わりにくい。
牧師像の考え直しのために
(1)牧師の仕事と仕事場牧師の仕事には、説教、牧会、管理、教区や全体教会での務め、その他の働きがある。それらの仕事のためには、それぞれが別個である必要は必ずしも無いが、適切な場所が必要である。
説教の務めの中で、説教すること自体は氷山の一角である。礼拝の準備、教育活動準備などがあり、また、有用無用の沢山の本を読む必要がある。優雅に見える水鳥が水の中で水かきをやっているのと同じことである。大柴先生の牧師室に入ると、水かきを良くなさっていることが分かる。このために、牧師の書斎が必要である。
牧会のためには、祈りをする場所、相談に来る人の応対をする場所が必要である。病床訪問のように外に出ることもある。
管理の務めには、書斎と別の事務をする場所が必要となる。今は、印刷室やパソコン机なども必要になる。
各個教会主義でなければ、牧師・代議員は教区や全体教会への責任があるが、その場所は主に教区・全体教会の事務所である。
その他の働きとして、個人の賜物を生かし個人として使命を感じてする働きなどもあり得る。三鷹教会の平岡正幸牧師による、新宗教からの脱会者のカウンセリングの働きはその例と言える。今後、NPOなどに関わる働きもあり得る。その際の注意としては、教会の施設や時間をなし崩し的に使うべきでなく、ケジメが必要である。
牧師が専従者であり、教会から給与をもらう限り、仕事の透明度を高めなければならない。上記のような仕事のバランスを皆に示した方が良い。
(2)牧師の家族と住居
牧師夫人の働き方のイメージとして、石居正己牧師、賀来周一牧師や私の世代の牧師夫人のイメージを信徒が持っていると思う。しかし、その時代は終わった。そう覚悟した方が良い。
最近では、専門の勉強(薬剤師、臨床検査技師、教員など)をしている牧師夫人も多く、自分の専門を生かして働きたいのは当然のことである。教会は牧師夫人とは何の契約も結んでおらず、牧師夫人に昔のような働きを期待できないであろう。もし、信徒以上の働きを期待するなら給与を払うべきであろうと思う。(牧師と夫人を合わせて、牧師給の1.5倍程度が当面の目安か。)
牧師の子供のことについては、「子供」のうちは親がコントロールできるから良いが、思春期以降の「中共(ちゅうども)」になると、そうは行かない。自分の場合、「困ったことがあったら、賀来先生に相談しなさい」と子供に言っていた。(牧師間のそのようなチームワークも大事。)
その他、家族の問題として、牧師夫妻のどちらかの親が、それも場合によっては健康上の理由等で同居することも増えてくる可能性もある。そのような家族の問題について、牧師家庭は、どの家庭もそうであるように、プライバシーが守られなければならない。同時に、牧師は仕事柄教会の会員や求道者、全く飛び込みでやって来る人などと、一対一の、親身に向き合う関係を持つ必要も出てくる。その点で、工場で一日に八時間何箇所かボルトを絞めるという仕事とは違い、帰宅してプライバシーがあれば良いというのと全く違い、そこが難しいところである。
そして、そのような関係のために開かれている場所はどういう場所であるかという問題がでてくる。現実には、教会あるいは牧師館にその為のカウンセリングの部屋が必要となる(密室は好ましくない)。
このように、プライバシーと職務上必要な開かれたスペースの両立が必要であり、同時に難しい課題である。職住分離するとした場合は、特に良く考える必要がある。
これらの仕事場について、建築時に教会員が牧師先生と一緒に考えていたことは、絶対変更不可能ではないが、変更する時は、検証しながら納得ずくで変えて行かねばならない。牧師館に入って行って良かったのに、牧師が変ったら、ある日突然玄関から入れなくなるのも、おかしな事であろう。
おわりに
牧師の仕事の実情に即して考えることをお勧めしたい。例えば、平均的な1週間の作業表、突発的な事柄を含め、1年間に起きることを書き出して考えると良い。牧師の仕事に応じて、牧師館と会堂について計画しなければならない。これが、今日の話の基本的な考え方である。まとめ
・これまでの牧師像職住一緒・24時間スタンバイ
今も信者一人一人の人生に係る。
その中で、職住区別の傾向も。
・牧師の仕事・仕事場
説教(礼拝)、牧会、教区・全体教会での務め、その他の働き。
それぞれに適切な仕事場が必要
・牧師の家族・住居
昔の牧師夫人の時代は去った。
家族のプライバシー尊重
・信徒・牧師が、実際に即して考え、納得ずくで変えてゆく。
(むさしのだより 2003年10月号より)