むさしのだより「井戸端の戸」 平均律と純正律

楽器店のTVコマーシャルにも出てきたバッハの無伴奏提琴パルティータ第3番第3曲ガボットで、始まってすぐにA線(2番線)の「シ」とE線(1番線)の「ラ」の和音を響かせる。小学校で習った典型的な7度の不協和音だが、多くのしかるべきバイオリニストは「シ」の弦を押さえる指を1mmチョット上に(手前に)上げて協和音にハモらせて弾く。この「シ」の音も4度上のE線「ミ」とではほぼ定位置で、また6度下のD線「レ」とでは1mm弱下げると綺麗にハモる。物理的には振動数の比と和音の原理で説明できるが、フレットが無くて音程の自由な弦楽器ならではの特技でもある。勿論フシ回しで敢えて不協和音に鳴らすこともあるが、それにしても正しい音程はどれか。鍵盤楽器に平均律を創造し、音符の位置毎に音程を固定したこの曲の作曲家は、弦楽器にはどのように考えていたのか、不勉強なもんで読んだり聞いたりしたことがない。神様は「何事にも正解はいくつもありますよ」とニコニコして居られるのかなあと勝手に解釈している。極楽も天国も昼にちかくなったのでございましょう(蜘蛛の糸パロディー)の気分で。

(は)
(むさしのだより2004年7/8月号)