「読書会ノート」 ガルシア・マルケス『百年の孤独』

 ガルシア・マルケス 『百年の孤独』

今村芙美子

 

16世紀の頃、コロンビアのある村が海賊、フランシス・ドレイクに襲撃される。ブエンディア家とイグアラン家が呪われ、変な運命を背負い込む。それから三百年後の、ホセ・アルカディオ・ブエンディアとウルスラの結婚から六代後迄の怪奇的な運命をこの本は縦糸にして、横糸は作者の生い立ちや社会経験を生かして、人間性や心理描写を緻密に織り込んでいる。そして百年後に怪奇な形で、六代目のアウレリアノがジプシーのメルキヤデスが亡霊になってまで教えてもらった羊皮紙に書かれたサンスクリット語の文が、暗号文であったのに気付く。矢のように解読し、自分が一族の最後となって今の今、消滅する運命なのを知るのである。

作者は父母の顔を知らず、祖父母に育てられていたので、好奇心旺盛なブエンディアは祖父を、知恵が有って働き者のウルスラは祖母を投影したのであろう。次男のアウレリアノ大佐は最愛の妻を中毒死で失い、政治活動に走り、庶子の権利を謳う自由党を指示し、内戦に参加するが、確執が有って政治から身を引くところは作者本人を投影したのだろう。ウルスラの長女の行き掛かりの誤解によって養女、姉レベーカを死ぬ迄憎しみ抜くところは、日本文学に出てくる生き霊を憶い出す、それと反対に、長男が呪いの影響であろう、相当の放蕩息子になり、ウルスラに勘当されたが、次男が捕虜になり、処刑される寸前、猟銃で敵を追い払い、弟を救ったが、長男が風呂場に戻った時、猟銃の謎の暴発で命を落とし、耳から出た血は一本の筋になって何百メートルも先迄流れて行き、母のいる台所へ伝わって行く。ウルスラはそれが長男の血と分かり、血を辿って行くと長男が死んでいる。彼の放蕩の罪の深さを物語るようにただならぬ火薬の臭いがする彼のからだをウルスラはあらゆる手段で懸命に消そうとした、と言う当たりは、日本とかけ離れたコロンビアならではのエネルギッシュな粘りのある生活を彷彿させる。

この登場人物はウルスラが言うように変人揃いだが、愛情深く描かれ懐かしさを感じ、彼等のこのような人々は夜空の星のようにたくさんこの地球上に生きているのではないかと思う。

(2009年 7月号)