「読書会ノート」 綿矢りさ『インストール』

 綿矢りさ 『インストール』

今村 芙美子

 

学校になじめず、登校拒否に陥った女子高生が自分の部屋の物を全部捨てる決心をする。三年前に離婚し、娘を育てている気の強い母に気付かれないように事を運んだが、最後に残った祖父の形見の壊れた古いパソコンをマンションのゴミ捨場に運んだ時、同マンションに住む小学生の少年に声を掛けられ、そのパソコンを少年の部屋に運んだ。数日後、彼女は少年にとんでもない話を持ち掛けられる。少年が修理したパソコンが入っている部屋の押入れの中で、交代でチャットの風俗嬢のアルバイトをして欲しいと。

彼女はあのゴミ捨場で大の字になって寝転がっていた時考えていた。中学生の頃には確実に両手を握り締めていた私のあらゆる可能性の芽があったのに、17才の心に巣食う「何者にもなれない《という枯れた想いは何なのだろう。このまま小さな人生を送ることにならないために前進せねば。動けない。彼女はこのアルバイトを引き受けた。

何故17才の著者が妖しげな言葉が交差する世界を題材にしたのだろう。現代の子どもが避けて通れない刺激的で邪魔な知識の甲羅のような側面を小説にして爆発させ、本来の無垢な存在を確認させたかったからかもしれない。数週間もすると、少年と女子高生はこのアルバイトに辟易した。二人は少年の義母が彼女のために炭酸飲料を毎日冷蔵庫に補給していたことに気付いた。又彼女は家に帰り、空っぽの彼女の室で自分には無関心と思っていた母親が泣き疲れて横たわっている姿を見た。少年と女子高生はこの悪の反抗に終止符を打つしかなかった。上器用な母親達が子どもの思いがけない行動に対して示した愛情が伝わり、女子高生は生の人間に会うことができた。そして彼女はこの一回きりの汚れたアルバイト料で、机と椅子と扇風機を買うことにした。

著者の作品は感覚表現が豊かで、場面、場面が読者に見えるようである。

(2008年 7月号)