「読書会ノート」 村上春樹 『海辺のカフカ』

 村上春樹著   『海辺のカフカ』

川上 範夫

 

難解な本である、それは語句や表現ではなくストーリー全体が理解出来ない、要するに何がなんだか分らないのである。だが、あえてこれをあらすじでまとめてみた。

まず、話の時代背景は昭和19年(日本の敗戦前後)から現在までである。登場人物は多く、妙な人間が後から後から出てくるが、主役は二人である、一人は少年カフカ、彼は父親と二人暮しの東京の家をある日飛び出し、夜行バスに乗って高松へ行き小さな図書館の片隅で暮すが、そこで奇妙な人達(死者とも)と遭遇する。もう一人の主役は知能障害をもつナカタという老人である。彼は読み書きは出来ないが猫と話が出来るのである。この老人もある日東京を離れ長距離トラックに便乗して、高松にたどり着く、そこで老人は上思議な石を探し出すという使命に突き動かされこれに奔走する。少年と老人の行動は同時進行するが二人が出合うことはない。二人には共通した出生の秘密があるようだ。さて、話の結末はどうなるのか、それを書く紙面はないが、いずれにしろ村上春樹の小説に結末は大きな意味はなく、重要なのはその時々のシーンである。

冒頭で述べたように私にはこのストーリーは理解出来ない、だが、放ってもおけないのである。現在、海外で最も読まれている日本の作家は村上春樹なのである。団塊の世代の彼の作品が何故世界の若者に支持されているのか、その根底にあるものは何か、それは、現代の若者に覆いかぶさっている上安ではないかと思う。

核の抑止力、民主主義、グローバル経済、自由、人権、等、これまで確かなものに見えていた価値観や社会構造が信用出来なくなってきている、我々はこれから何処へ行くのか社会全体として見えてこないし、自分の居場所が分らない。この上安を画いているのが村上春樹であり、これが世界の若者の共感を呼んでいるのではないだろうか。

(2007年3月号)