阿部和重 『グランドフィナーレ』
今村芙美子男は、八回目の誕生日を迎える自分の娘のために子供服売り場を訪れる。彼を迎えるのは一見可愛い、ピンク色の鬼と青色の子ぐまのぬいぐるみだったが、彼を見ると突然顔を大きく膨らませ、大口を開け、鋭い牙を剥き出した。
ロリコンの趣味があって、それが原因でドメスティックヴァイオレンスを起こして離婚させられた沢見は、映画監督の仕事もやめさせられ、今回も可愛い娘とも会えずじまい。そしていつものXの場所でいつもの仲間と一緒に自分の屑のような精神に薬と酒を注ぐ。その時に、仲間の前であの伊尻によって、沢見がロリコンであることをばらされる。すっかり落ち込んだ沢見にIという女性が訪ねて来たので、「皆写真だけだけれど、一人の少女には過ちを犯してしまった」と話すと、Iは「相手の少女は自殺するかもしれない」と沢見に厳しい言葉を残す。
故郷に帰り、家業の手伝いをしている沢見の心は闇夜の海底のようであった。そんな時、小学校の教師をしている旧友に仲良しの二人の少女の演戯指導を頼まれる。一度は断ったが、当の少女達が必死に頼むので彼は悩んだ末、それを自らの心の葛藤のグランドフィナーレにしようと決意し、演戯指導に取りかかる。そして沢見の心臓の鼓動とともに大きな不安の中で、二人の少女達の芝居「忘れな草」の幕が開き、沢見は無事グランドフィナーレを迎えられた。
文学作品は昔から、病的な社会現象も取り扱われるが、ここではサラッと書いた印象がある。読書会ではロリコンなどは男が弱くなり、女が強くなったから起こってくるのだという言葉や、いや昔からあったのだなどの言葉が飛び交った。一筋縄では行かない人間の業を感じる。だから私は本当に沢見はグランドフィナーレを迎えられたのだろうかと思ってしまった。�
(2005年 5月号)