モーパッサン『女の一生』
永吉 秀夫著者は自然主義の代表者、ブルジョア社会に批判的立場をとる。1880年短編『脂肪の塊』が文壇に認められ、1883年長編『女の一生』で名声は世界的となる。
脂肪の塊とは若い太っちょの娼婦のあだ名。普仏戦争下ある町に進駐軍が来た。町から脱出を試みた金持ち、尼僧、娼婦が乗合馬車に乗りこむ。大雪のため途中のホテルに泊る。そこで軍の士官から娼婦に性の要求があるが拒絶する。そのため全員足止めとなる。金持ち等はみんなのためにと娼婦に難題を持ち込む。翌日馬車は娼婦のすすり泣きと金持ちの利己主義を乗せてデコボコ道を走って行く。
『女の一生』は夫と息子の男性的欲望によって一生を犠牲にした女性の物語。主人公ジャーヌは修道院寄宿舎から両親と召使との生活にもどるが、平穏ながらわびしい。司祭の訪問、貴族同士のおつきあい、そしてラマール子爵との出会い、恋をし結婚し男の子を産むが、夫婦愛の経験の中でも二人の人間が決して魂まで互に入りこむものではないということに気づく。夫は召使や貴族夫人を誘惑し、その結末として事故死し、息子も学業を捨て情婦と遊び、莫大な借金を主人公に負わせる。破産寸前に家を出て所帯を持ち、すでに隠居の立場になった元召使が主人公のもとに現われ、たくましく、財産処理、息子の後始末、新しい住居への移住を手助けする。ノルマンディの風物、海が主人公を見守っている。邸宅から小さな家に引越して窓から海が見えないことで物足りなさを感じている。召使が言う「世の中というものは、人の思うほど善くも悪くもなしですわい」の言葉はもっともであるが、主人公の淋しさは言葉にはならない。
(2004年10月号)