鈴木秀子『愛と赦しのコミュニオン』文春新書
川上 範夫今、世の中で起こっている出来事は、かって私たちが後生大事にしてきたこと、社会的地位、大きな家、学位など全てに価値の転換が迫られている。生きることの本質、それは人間の尊さである。何をなしたか、何を得たかという行為や成果ではない。著者はこれをドゥーイングの世界からビーイングの世界へと表現している。
人間存在の最も深いところで私たちは大きないのちと愛で結ばれている。これがコミュニオンの考え方であり、コミュニオンとは愛による魂の絆を意味する。そしてコミュニオンで最も大切なことは聞くことにある。傷ついた人を癒すにはまずひたすら聞くことである。しかし、それは簡単なことではない。そこには訓練された聞く力が必要となる。これを著者はアクティブリスニングと言っている。
そして巻末に、何年か前、来日したマザー・テレサの講演の言葉を書き記している。「日本の街を歩き、日本の方たちと話をして、私はインドの地で体験したのと同じ衝撃を感じています。日本では死にゆく人が路上に捨てられることはありませんが、それ以上に沢山の人が、心の傷を他の人たちとの愛のつながりの中で癒されたいと悲鳴をあげているのを感じたからです。」私がこの本を読み終わった時、最も印象に残った一節だった。
(2001年10月号)