「読書会ノート」 浅田次郎 『鉄道員(ぽっぽや)』

浅田次郎 『鉄道員(ぽっぽや)』

村上 裕子

 

今年最初の読書会は第一一七回直木賞受賞作、浅田次郎の『鉄道員』である。

この作品は、日本昔話のようでスーッと読めてしんみりと泣かせる。

鉄道員とは〃ポッポーッ〃とSLの機関士のことである。主人公の乙松とその旧友仙次は、かつての古き良き時代の頑固なまでに凛とした愛すべき鉄道員である。二人は昭和 年、ピカピカの最新式ジーゼル(キハ12形気動車)が北海道、幌舞駅に入線してきた日に群衆が歓声を上げて迎えるのをデゴイチから興奮して眺めていた。そして、あのジーゼルも二人もこの一・二年で定年となり、今となっては、文化財と化してしまおうとしている。乙松が一番辛かったことは、娘を幼くして亡くした事と、おととし女房に死なれたことであった。

真っ白な雪の終着駅・・・お伽話のようなファンタジーの世界へと・・・。

娘ユッコは幽霊となってしみじみと乙松に語りかける。乙松は半世紀分の愚痴や自慢を口にする。「したってお父さん、なんにもいいことなかったしょ」とユッコは言う。乙松の心は確実に軽くなった。

淋しい正月の翌日に乙松はホームで死んだ。いい顔していた。仙次の運転で焼き場までキハ12形で運ぶことになった。〃世の中がどう変わったって俺たちは鉄道員だ〃と作者は結んでいる。

今日、私達が見失っている人間の情というものがたっぷり湛えられた物語である。

最近の世相の中、科学ではどうしても解決できないいきづまりを感じる。現代人は無意識にカウンセラー的な幽霊の存在を求めているのかもしれないと思った。