柳 美里 『家族シネマ』 講談社
野上きよみ「最近の芥川賞は文学に非ず」と、我が読書会では、きわめて不評ではあるが、マスコミを賑わす「家族シネマ」は一体どんな本か知りたく、敢えて推薦したがやはり取り上げることに関して賛否両論であった。推薦した当人も読み始めて「シマッタ、なんでこれが芥川賞なの」と言う思いを抱きつつ読み進むにつれ家族とは名のみで、個人個人バラバラで、本当の家族を望みながら、そうなり得ない現代の問題点を提起している事に気づいた。この本の帯には「失われた家を求めて」ーもし家族で映画に出演したら?ーと書いてある。
折しも神戸で起きた痛ましい事件、いづれも病める現代の根っこは同じなのでは……と思えてならない。この本を認めない方々も一読され、御意見を聞きたいものである。以下、読書ノートに書かれた参加者の感想である。
☆私小説に近いが、覚めた目で現代の家族と、賞を受けただけの中身のある事に気づく。
☆崩壊寸前、いやしてしまっている家族、各々我がままでいながらなぜか、個人的にひたむきに生きている。作者の若いながら鋭い眼を感じた。日本の核家族も大なり小なりこう言う問題を抱えていると思う。
☆場面場面に浮き立たせ、問題を投げかけて居り戯曲家の面目躍如というところか。
☆情景描写、人間の描き方に作者の鮮烈な眼を感じる事は出来ても、正直理解しがたい世界であった。しかしこれが賞を受け、長くベストセラーになり、作者のサイン会が執拗に妨害されると言う事を考えてみたい。文部省は、先頃の教科書検定で、従来通りの家族の型より、現状に即した新しい家族や結婚の形態に多くさいたものを不可としたという。教会が文部省になってはならないだろう。
☆事実(事例)だけで成り立っている小説、何の感情投入も感情描写もされていない。感情(愛)を育まれなかった人間に愛を形成してゆく事の難しさを感じた。とても怖い感じがした。
(97年 8月)