編集後記 「神さまの匂い」 秋田 淳子

お茶のお稽古を見学させていただいたことがあります。伺った古い日本家屋の玄関を入るなりとび込んできたのは、木造家屋独特の、しっとりとした湿気と長年の間に畳や壁、そして、天井にまで染みついたお線香の匂いでした。

それは、幼い頃に遊びに行った祖父母の家の仏間で初めて体験した、子ども心に謎めいた匂いと全く同じ匂いでした。今まで自分から思い出すこともなかったのに、その匂いが幼かったその時の風景を瞬時にして甦らせました。

毎年、何処からともなく落ち葉焚きの匂いが流れてくると、秋という季節を私は実感します。その煙たい匂いからは、スッとした秋の空の色や大気の温度まで思い出します。今、私が探しているのは、子どもの時に通っていた教会までの道のりで感じた田んぼの稲穂の匂いです。

匂いには、記憶をよみがえらせる不思議があります。そして、私が初めて神様に出会った時に心で感じた匂いは、どんなだったかしら…と思うのです。

(2000年 9月)