編集後記 「人の響き」 秋田 淳子

人の身体を観ることの出来るある人がこう記しています。「世界で一番という演奏家の身体を観ていくと、背骨の一つ一つに音が伝わって響いて動いているのが分かる。実は、その人が弾いている楽器が鳴っているのではなくて、その人自身が鳴っているのである。下手な人の背骨を観てみると、実のところ、全く響いていない…」と。

それは、言いかえれば楽器を演奏する技術的なことよりも、その人の奏でる音の中にその人の歩んできた人生の深さ、その人の人間としての奥行き、その人の曲への果てしない想いなどあらゆる全てのものが表れてくるかどうかということなのだと思います。そうして響いてきた音こそ、本物なのです。

不思議なことに人の中にあるものは、正直な形で外に表れてくるものです。

年令を重ねるとともに、私の口から出る祈りの言葉も、そして、賛美の歌声も私自身の内から響いてくるものとなって欲しい、本当のものであって欲しい…、そう願わずにはいられないのです。

(99年 9月)