恋なすび 石垣 通子

 地中海沿岸一帯に野生し、聖地にも至る所に見られる。早春、濃紫の花をつける。

 この根はチョウセンニンジンのように先が分かれて人の胴体から手足が出た状態を思い起こさせる。ナス科には神経性毒成分を持っている有毒植物があり、量を過ごすと人を狂気にすると言われ、恋なすびも同じような成分を有し、薬用植物として古くから用いられて来た。その成分は主に果実に含まれ、これを乾燥させて貯え、煮出して使用した。果実がうれて芳香を放ち、それに誘われて食し、脳神経をがやられて、常識を逸した狂態を演じたのを見た人は、恋なすびの中にいた悪魔が人間に乗り移ったとして気味悪がった。根が裸形の人に似ていたことも小人の悪魔を連想させた。

 シェークスピアの『ロミオとジリエット』の中にも出てくる。

「小麦の刈り入れのころ、ルベンは野原で恋なすびを見つけ、母レアのところへ持って来た。」(創世記30:14)