教会と歴史(2) 石居 正己




むさしの教会元牧師、ルーテル学院大学・神学校元教授(教義学、キリスト教倫理)の石居正己牧師による受洗後教育講座です。




(承前)聖書は正典と呼ばれますが、正典という言葉は、canon といって、もともとは尺度を現します。これが信仰の基礎、根拠という意味にほかなりません。それを教会が現在の形に定めたのは、大体四世紀頃ですがそれからずっと同じ聖書が基となっているわけです。もちろん、聖書が各国語に翻訳されてきましたし、それぞれの時代により確かなもとの姿を回復する作業は続けられますが、基本的には私たちが今日もっている聖書が伝えられてきたのです。

 例えば私たちがよく知っている神道の中には、正典と呼ばれるものはありません。むしろ儀式や儀礼、祝詞といったものが彼らの信仰の軸になっているといって良いのです。仏教には沢山のお経がありますね。大体三千部位のお経があるとされています。それは一切経とか大蔵経とか言われます。大蔵経と言うのはある時期の中国で皇帝の蔵に収められたものを、そのように呼んだようです。以前のわが国でも、「賜天覧、台覧」といった言葉がれいれいしく書物の最初の頁に印刷されていた場合がありました。天皇陛下や皇后陛下にご覧頂きましたという事が、その本の権威付けになったりしたわけです。(続く)

(1995年 5月)