シス(=フィンランド人魂) 2003年 6月号 大柴譲治
映画『黄昏』の中の夕陽に輝く湖を思い起こした。フィンランド・ハミナ郊外のウーテラ家での情景である。既に夜の9時を回っていたように思うがまだまだ明るい。目の前に拡がっている情景は絵に描いたように美しかった。暮れなずむ空と丁寧に耕された畑。土の色も違う。その向こうには緑の白樺の森に囲まれて湖がきらめいている。禀とした冷たい空気と木々を搖らす風。皆息を飲んでそれを見つめていた。どこかでカッコーが鳴いている。時が止まったかのようだ。
5/16-25、17名でフィンランドとスウェーデンを旅してきた。今回の旅は長く日本伝道を支えてきたフィンランドのキリスト者たちと交流を目的とした。具体的には3年前から当教会に派遣されているヨハンナ・ハリュラ宣教師を支えてきたハミナ市のヴェーカラーティ教会員との交流であった。ヨハンナさんのご両親AnteroさんとLilliさんにもお世話になった。四日間運転手を務めてくださったMarkkuさんとそのお嬢さんのPirjoさんも長く日本伝道を熱い思いで支えてきたNakkiファミリーの一員である。
フィンランドはSで始まる四つの言葉で有名と聞いた。サウナ、シベリウス、サンタクロース。ここまでは分かる。四番目は「シス」という言葉で「フィンランド人魂」を意味するという。フィンランドは厳寒の国である。夏は夜が短く、冬は昼が短い。夏時間のためもあるが、5月末にヘルシンキの緯度では暗くなるのは夜の11時前。明るくなるのは3時過ぎだった。長い冬を乗りきるためには逞しさが必要とされる。歴史的にもフィンランドは困難な時を体験している。スウェーデン(600年間)、そしてロシア(100年間)の支配下に長く置かれた。独立は1918年。ロシア国境に近いハミナ周辺には所々に大きな石が防衛線として無数に並べられていた。それらはすべて人力で運ばれたのだという。過酷な状況の中で培われた不屈のフィンランド人魂を垣い間見た思いがした。
1900年12月13日、最初のフィンランド人宣教師が長崎の土を踏んでから103年。何が宣教のスピリットを支え続けたのか。そこにも不屈のフィンランド人魂を感じる。キリストが備えてくださった一期一会の出会いの旅。恵まれた旅に感謝したい。