テレビでノーベル物理学賞受賞者・小柴昌俊さんのインタビュー番組(英語)をしていた。私の名前は「大柴」なので自然と「小柴」という名に親近感を覚えてきたが、小柴さんはとてもいい表情をしておられた。輝いているのだ。話にも思わず引き込まれた。曰く、「中学校の先生は生徒に尊敬されなくてもよいが好かれる先生であって欲しい。生徒は数学の先生が好きになるから数学が好きになるのであってその逆ではない。数学が好きになったから先生が好きになるということは絶対ない。生徒は本能的に先生自身がその科目が好きかどうかを感じ取っている。」 確かになるほどと思う。
どうやって教え子のやる気を引き出すのかという質問にはこう答える。「シカゴ大学で学んだ時のこと。まだ誰もやったことのないことをいろいろと想像するのが楽しかった。そこで得たアイデアを書き留めていて、それを20年後に実現することができた。私は若い研究者には常に一つか二つの『研究のタマゴ』を持ちなさいと言っている。私はタマゴをいくつも持っていて、新しい学生が研究室に来るといろいろのタマゴを見せてその学生が関心を持つものを搜すようにしている。一つのタマゴを見せて関心を示さないと次のものを見せるようにしている。しかし学生も受け身でいるだけではダメで積極性・能動性が必要。関心があるテーマを見つけるためには学生自身が積極的になる必要がある。いろいろなことを自分自身でやってみることが大切。いろいろやる中で自分自身のテーマを見出して『人生を楽しんでください』というのが私のメッセージです。」
味わい深い言葉である。このような大きなスケールだから世界に通用するのであろう。不屈の精神と卓越した創造力で小児マヒや成績ビリという逆境を乗り越えてこられた。もう一人の受賞者の田中耕一さん(上村敏文兄の高校の同級生とのこと)もまたユーモアのセンスが抜群である。人生を味わうため、創造の喜びを味わうためにはユーモアも大切ということであろうか。
「人生には遅すぎるということはないのです。私は76歳だがまだいろいろとやりたいことがあります。いつも興味深いことはたくさんある。今もいくつものタマゴを持っていますよ。笑われるようなタマゴかもしれませんが。それは秘密です。」幼子のようにいたずらっぽく輝く瞳にサムエル・ウルマンの『青春』という詩を思い起こす。「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。‥‥齢を重ねただけでは人は老いない。理想を失うとき初めて老いる」。この一年も、神さまに預けられた人生を楽しみながらcreativity(創造の喜び)を味わう一年としたい。