たより巻頭言『鳥が教えてくれた空』 大柴 譲治

 「天は神の栄光を物語り、大空は御手の業を示す」
                    (詩編19:2)

 エッセイスト三宮麻由子さんのドキュメント『鳥が教えてくれたこと』を観た。麻由子さんは4歳の時に失明、15歳で米国に単身留学。現在はロイター通信で英語と仏語の翻訳の仕事をしている。笑顔のさわやかな女性である。野鳥のコーラスがシャワーのように降り注ぐ中で突然、自分が大自然の一部として生かされていることを知り、それまでの狭かった世界が宇宙的規模で開けたのだという。「自然を五感でつかむこと。季節の香りがちょっと甘みが入った木の香りに変わってゆく。もう紅葉が始まるよ、もう秋だよ、という香りがする。」

 右目網膜剥離の手術から一年が過ぎた。見えるということの大切さを思う。桜の美しさにも心動かされる。視力は左目よりも六段階ほど低下。老眼と重なったせいか、左右の目の焦点がうまく合わないでいる。最近は慣れてきて本も少しずつ読めるようになったが、最初の半年は喪失感で深く落ち込んだ。齢を取るということはこのようなことを指すのだろうか。

 「両親がくれたもので一番ありがたいのは、絶望したときに自分でどう立ち直るかを教えてくれたこと」。三宮家は絶望しそうになると希望を保つためのプロジェクトを探すのだという。普通高校の受験が許されなかった時にはグランドピアノの購入を実現。家族ぐるみの前向きな姿勢に打たれる。

 麻由子さんが母校の中学で語った言葉もいい。「夢を叶えるために第一歩を踏み出すことが大切。飛び込んでください。それが第一歩です。」ずっと自分は「目が見えないことはマイナスだけど頑張りなさい」と言われてきた。しかし一人の米国人教師が、”You can change.”と言ってくれたことが転機となる。出会いの大切さを思う。NHK出版より二冊のエッセイ『鳥が教えてくれた空』『そっと耳を澄ませば』が出ている。