たより巻頭言「一期一会」 大柴 譲治

「真実の出会いは恩寵である」(マルティン・ブーバー『我と汝』より)

 人と人との出会いは本当に不思議である。世界の人口が53億人と言われている今、私たちは一生のうちにいったい何人の人と出会うのであろうか。葬儀のたびに、その会葬者の数の多さの中に、一人の人間がその生涯で出会う人々の多さに思いを馳せる。もちろん、出会うことができずにすれ違ってゆく人の方がはるかに多いのだが・・・。カントリーボーイであった私は、誰一人知る者のいない新宿の雑踏の中に、深い孤独を感じて茫然としてしまうことが時折ある。しかし、出会えていない人ではなく、出会えている人のことを大切に考えたいと思う。

 私の好きな茶の湯の言葉に「一期一会(いちごいちえ)」がある。それは藤枝中学3年の時の恩師が繰り返し語ってくれた言葉でもある。アメリカでもことあるごとにこの言葉を繰り返した。私にいちばんしっくりくる英訳はこうだ。Treasure every moment, for it never recurs.(すべての瞬間を大切にせよ、それは二度と繰り返さないからだ)そして私はこの言葉を、「目の前に座っている客人とは生涯ただ一度きりの出会いかも知れない。だから悔いのないように心をこめて(茶を)もてなせ」という意味に理解している。この言葉は人と人との一度限りの出会いのかけがえのなさ、尊さをよく表している。

 聖書の中にも次のような言葉がある。「旅人をもてなすことを忘れてはいけません。そうすることで、ある人たちは、気づかずに天使たちをもてなしました」(ヘブライ13:2。旅人のもてなしに関してはローマ12:13も参照。)「旅人をもてなす」とは英語では hospitality だが、ギリシャ語では「異邦人(よそもの)を愛する(フィレオー)」となっている。自分にとって初めて出会う旅人を価値ある者、神が遣わされた者として見て心からていねいにもてなしてゆくこと、一期一会の出会いを大切にしてゆくということが求められているのであろう。「真実の出会いは(神からの)恩寵である」のだから。