3-C. 葬儀の具体的な在り方




(東教区出版部発行ブックレット『喜びごと悲しみごと』1976年 5月 1日より)

むさしの教会元牧師で、ルーテル学院大学元教授(牧会カウンセリング)

賀来周一牧師によるやさしいキリスト教冠婚葬祭入門です。




喜びごと悲しみごと

3-C. 葬儀の具体的な在り方

葬儀の具体的な在り方 葬儀にあたって、私たちはいくつかの注意事項に気を留めねばなりません。

第一、葬儀はあくまで式でなくて、礼拝です。したがって、私たちは死者のためというより死者もともに主を礼拝する存在として受け取る必要があります。キリストは、生者と死者の支配者でいましたもうのです。

第二、聖書によると、死はすでにキリストによって打ち勝たれているのですから、悲しみでなく、喜びです。けれども、人間的側面において、死は悲しみでしかありません。悲しみは悲しみとして受け取り、残された人たちの慰めとなるよう配慮がつくされないといけないのです。そして、その背後にある大きな喜びを常に見出すよう葬儀を取り行い、また参加する気持が必要です。

第三、葬儀は、ことにこの日本の風土の中では伝道的な意味をもっています。たんなる形式や習慣というより、どのようにすれば死者を媒介として主を証しすることができるかを考えることが大切ですし、それこそ、私たちにとっての大きな慰め、また励ましとなるのではないでしょうか。

ここで、私たちは少し手順について考えてみましょう。

(1)臨終 臨終がちかづいた時は、何よりも牧師さんに連絡をしましょう。おそらく病状を見て、聖餐式を執行することになります。枕辺にいる人たちも同じ聖餐にあずかります。召天直後には、短かい祈りが捧げられるのが普通です。

(2)遺体の処置 遺体の処置は病院側あるいは近親者によってなされるのが普通です。遺体の安置の方向や、逆さ屏風、守り刀のたぐいはいりません。ただちに葬儀店への連絡が必要となります。葬儀店に直ちに依頼すべきことは棺の手配と火葬のことです。そのあたりは葬儀店が心得ていますから任せておいて大丈夫です。こちら側ですべきことは、納棺、通夜、葬儀の日時、場所をきめねばなりません。こうした相談は遺体のそばで声高にしてはいけません。まして、臨終のさしせまっている人の枕もとで話すことは絶対に禁物です。召天者の枕元に信仰の記念となるもの、さしあたっての花などを置いたら、別室で事後のことについて静かに話す方がよいのです。葬儀店との相談には牧師さんも入れてやって下さるのが親切です。そうでないと、葬儀に不必要なものまで持ってこられることになります。時には、葬儀の費用のことまで出るかも知れません。しかし、牧師さんというのは、葬式だけすればよいというたぐいのものではありません。たいていは生前から関係があったはずです。そこまでいっしょに考えてもらえるならこれにこしたことはないはずです。葬儀の費用は、最近高くなって、最高では300万円位、最低でも7万5千円ぐらいします。一般の葬儀ではまあ30万~50万が普通といったところです(編集者註:1975年現在)。

(3)納棺式 遺体の処置が終れば納棺式をします。祈りの後、遺族、近親者で遺体の顔の周囲を花で埋めるのが通例のやり方です。その際、とくに故人が愛用していたものなどをいれることもあります。ただ、金属のたぐいは火葬の時、燃え残りますから葬儀店によっては、嫌うこともあります。

(4)前夜式 葬儀の前夜に行う礼拝です。遺族、近親、友人に集まつて貰いますが、時には近所の人たちが参加されることもあります。式だけを原則としますが、場合によっては食事を出すこともあります。状況にもよりますが、仏式のように大げさになることはありません。参列者もほどほどで切り上げたいものです。飲食よりも、召天者の信仰について語り合う機会として受け取ることが本来の意味となります。

(5)葬儀 自宅より出棺の場合、部屋を礼拝にふさわしく、しつらえ、生花をもって棺を飾りますが、できるだけ十字架などをもって、礼拝の中心を定め、写真や遺体そのものが中心となるのはさけます。自宅の場合、このように飾るのが難しいこともありますが、なるべく礼拝という本質にそった飾り方を心がけたいものです。線香は使いませんが、ローソクは使うこともあります。ただ、ローソクをもって棺をまつるといったことはありません。ローソクをつけるなら聖壇が必要となります。生花の名札も取る方が本来の目的にそいます。あえて必要なら別の場所に並べておくようにしたいものです。果物、菓子などの供物が来た場合は、壇上に並べず、下に置くようにします。献花については、ただ並べるだけとは限りません。会葬者が献花をすることによって、十字架の形ができたり、盛花を形作ったりするようスポンジなどで工夫することもできます。あるいは、直接遺体を献花で飾ることもできます。献花の数を予測するのはなかなか困難ですが、万一不足の時は、供花の近くにいる人が手折って会葬者に渡しても失礼にはなりません。葬儀は会葬者全員の参列を原則としますが、多人数が予想される時は、葬儀と告別献花の時間を分けて告知することもあります。

(6)火葬 火葬直前に短い式をします。火葬には段階がありますが、遺骨としては差はありません。火葬釜は中央ほど高く、個室を使うとまた高くなります。

(7)帰宅 遺骨はそのまま自宅へ戻って安置されますが、出棺時の時より簡素な飾りつけでよいのです。埋骨の時期は定まっていませんから、遺族の方々の都合によってきまります。記念会についても一定の時期はありませんが、1ヶ月目あるいは五十日目に記念会と埋葬を行い、以後毎年、召天日を記念会とする場合が多く、また、埋葬の時まで遺骨を教会で預かる場合もあります。

(8)遺骨で本葬を営む場合 いったん自宅で密葬し、本葬を教会でという場合があります。この場合、よほど大きな葬儀でないかぎり葬儀店の手を借りることはありません。この場合、やはり遺骨を中心にではなく、聖壇、また聖卓を中心に花などの飾りつけをすることになります。司会者は、遺骨に祈ったり、遺骨の前で司会をしたりすることはありません。聖壇また聖卓が、常に中心として見えるように、会葬者も、召天者も共に礼拝をするという気持があらわれるように葬儀の形をととのえたいものです。

(9)弔辞 弔辞は召天者の信仰の証であって、遺族への慰めとして語られるものです。普通、遺骨へ向かってなされることはありません。会衆席へ向かって語りかける調子でなされるのが、教会の弔辞のあり方です。

(10)献金、謝礼、香典返し 献金や謝礼はいくらぐらいするのですかとよく聞かれます。これは結婚式の場合も同じことです。しかし、献金や謝礼というのは、定額というものがありません。その人、その人の気持のあらわれとして、感謝や、記念の献金を教会に捧げます。また、お世話になったと思われる人、牧師さん、オルガニスト、聖歌隊、その他裏方で奉仕をしてくれた人たちへのお礼を、個人にあるいは、グループにします。金額はその時の気持に応じて、自由でよいのです。香典返しについても問題になりますが、最近では故人の遺志を生かして、教会の伝道のために捧げられたり、社会福祉施設、あるいは伝道者の養成のため神学校などのためにも献げられたりすることもあります。