「十字架のしるし」




『むさしの教会とシンボル』 文と絵 青山 四郎

(むさしの教会文庫 1980年 4月20日発行)
むさしの教会元牧師の青山四郎牧師による文章です。

「むさしの教会に出入りしておられても、意外に皆さんが御存知ないことが多いのではないか
と思いますので、気付いたことを書きならべてみることにしました。御参考になれば幸いです。」




教会の塔の上には十字架が立っていますし、教会の中にも、いろいろな所に十字架のしるしを見ることができます。十字架がキリスト教を示し、キリストの受難を示し、罪のゆるしの恵みである福音を示すものであることは、皆さん御存知の通りです。ですから昔から教会堂の屋根の上には、必ず十字架が大きくそびえて、キリスト教会の存在を示してきました。ヨーロッパでは、ずっと初期から十字架をつけた教会堂が部落の中央に建てられ、それを中心にしてそのまわりに住宅が集まって町や村が形成されています。

ここでついでに、いろいろの十字架について説明をしておきましょう。


「ラテン十字架」
この図のように、上と左右の三つは同じ長さで、下が少し長くなっています。伝統では、イエス・キリストはラテン十字架につけられたのだと言われています。古い美術作品をみると聖フィリポがこの十字架を手に持っている姿が描かれていて、これは聖フィリポの十字架とも言われていますが、多くのラテン系の西方教会の聖者たちも、この十字架を持っている姿が描かれています。ですから、これはラテン十字架と言われているのでしょう。一般には、この十字架が一番広く用いられています。

「ギリシャ十字架」
天地左右が同じ長さの、真四角の十字架です。歴史的には、キリストやキリストの受難を示すというよりも、キリスト教会を指す場合に用いられたものだと言われています。

「聖アンデレの十字架」
これは余り見かけませんが、斜めになったX字形の十字架です。伝説によりますと、使徒聖アンデレが、晩年捕えられて殉教の死を遂げた時、十字架につけようとしたら、「恐れ多いからイエスさまの十字架と違った斜めの十字架につけて下さい。私にはあがない主イエスさまと同じ十字架につく資格がないのですから」、と申し出、望み通りこの斜めの十字架にかけられたのだそうです。そこでこれは聖アンデレの十字架と呼ばれています。ですからこの十字架は、苦しみにおける謙遜のシンボルと言うことができます。普通はあまり見かけませんが、北欧の国の国旗には用いられているようですね。

「T形十字架」
ギリシャ語のアルファベットでは、Tのことをタウと言うので、タウ十字架とも言います、これは上がない珍しい十字架です。ある場合には、旧約の十字架とも言われています。それは、モーセが荒野で蛇をあげた時に用いた竿がこの形をしていて、そのことが十字架にあげられたキリストの予表であるとされているからです(ヨハネ3:14)。伝説によると、聖フィリポがこの形の十字架につけられて殉教したとされていて、聖フィリポの十字架とも言われています。

この他、ラテン十字架の中に輪が入った「ケルト十字架」とか、足台のついた十字架等もあります。

さあ、それでは、この教会の塔屋の上を見て下さい。ここにもちゃんと鉄の十字架がついています。縦が長いので、ラテン十字架だということがわかります。しかし上が大分のびているので、少し変形のようですね。これは、ここがキリスト教会だよ、というPRの意味もありますが、同時に、この家はイエス・キリストによって建てられたものであり、イエス・キリストのものであることを示しています。

更によく見ると、十字架の根もとに、円い球があります。これは地球を意味しています。この地球は、父なる神の統べたもうもので、そのうえに十字架が立っているのは、キリストの福音の恵みは、地上の全てのものに及ぶものであることを示しています。残念ながら長年の風雨に晒されてすっかり錆びつき、十字架も傾く程に痛んでいます。早く修復されることを願っています。(編集者註:その後修復されていますのでご安心ください。)