むさしのだより「井戸端の戸」 Mozart生誕50年によせて


今年はモーツァルト生誕250年の年である。ウィーンの中央墓地にはモーツァルトを真ん中にしてベートーヴェン、シューベルトが並び、横にはブラームス、後ろにはフーゴ・ヴォルフが眠る。観光名所になっているので、訪れた方も多いことと思うが、モーツァルトの記念碑の下は空っぽなことをご存知だろうか。未だに彼が何処に埋葬されたかは不明であるが、寂れたお墓ばかりが並ぶサンクト・マルクス墓地の“多分この辺り?”という所に、天使の嘆き悲しむ像が彫られたモーツァルトのお墓がある。丁度今頃はライラックの花々が取り囲むように彩りよく咲きみだれ、素敵な香りに包まれていることだろう。無邪気に明るく軽やかなようで、根底には深い悲しみが流れるモーツァルトの音楽。このお墓の佇まいと重なって聞こえる。

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 (たより2006年5月号)