読書の喜び・話し合いの楽しみ — むさしの読書会:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
田坂 宏むさしの教会には長い間続いている会がいろいろあります。飯能集会、バイブルクラス、3つの婦人の会、壮年会などと並んで、趣味の会に属するむさしの読書会は長い歴史をもっていて、はじめは婦人会のいとすぎ・サフランのメンバーが中心だったのですが、高齢化が進むにつれ男の高齢の人が半数以上になって、いろいろな層の人が議論を交えています。代々の牧師の賀来、石居基夫、大柴先生がいつも参加されるのと、キリスト教関係の本ばかりでなく多彩な本が参加者の希望によって選ばれるので、硬い話ばかりでなく世間話やいろいろな人の意見が聞けて楽しいときです。2ヶ月に1度、第3火曜日1時半から3時の開催で、それまでに次の月の本を読んできて全員が感想を話し合います。
感想や書評が「むさしのだより《に載るのでご存知でしょうが、その時々に評判になった本が多く選ばれます。最近では、『国家の品格』(藤原正彦)、『脳と仮想』(茂木健一郎)、『夫の宿題』(遠藤順子)、『つれづれ草』(卜部兼好)、『海辺のカフカ』(村上春樹)、『自負と偏見』(ジーン・オースティン)、『信長の棺』(加藤広)など、古今東西にわたっています。
2ヶ月前の4月の読書会では、少し毛色の変わった童話を読んで皆で語り合いました。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』です。その題で14の童話が入っている文庫本の「宮沢賢治作品集《を読んできて話をしました。童話は子供のための本ですが、子供にいろいろな科目に興味を持つように国語だけではなく理科・天文学・地理・歴史・英語・音楽・道徳・宗教までにわたることが書かれています。
まるで魔術師の朊のポケットからめずらしいものが出てくるように子供たちには思われるのでしょう。宮沢賢治の世界は大人にとっても広く深いものをもっていて多くのファンがいるのはメッセージを持っていて人を感動させるからでしょう。その世界に、広大な宇宙観・宗教観・愛・平和・生き方・自然と人間・生と死等が幻想的な物語の中に混在しています。
私は、子供のときに父が買ってくれて読んだ多くの賢治の童話を思い出しなつかしく思い、大人になってもう一度読んで感激を新たにしました。宮沢賢治は農業の教師が本業で、37歳で早世したのですが、死の2年前に書いた「雨にも負けず」の中にあるようなことを自分も実行して、農民たちに農業を指導し田舎の若者たちに文化的なものを紹介し、弱い者貧しい者の味方になり、真摯で純粋な生き方をした賢治のことを考えると、混濁してけがれた今の世の中にいる私たちはさわやかな風が体の中を通り抜けていくような気持ちになりました。
話し合いの中では、上に挙げたような賢治の考え方は仏教の信仰にもとづいているが、賢治に影響を与えたキリスト教の牧師か宣教師の人がいたという話や、『銀河鉄道の夜』の持つさびしさの由来などがでてきました。最後には教会のことや信仰のこと、身の回りのことが話しにでて終わりになります。
お暇がある方は一度参加されませんか。
(2007年7月号)