「読書会ノート」 茂木健一郎『脳と仮想』

 茂木健一郎  『脳と仮想』

田坂 宏

 

上記の脳科学の本を、最近では最多の出席者になる約10人で読んだ。「面白かったがむつかしかった《というのが率直な感想だった。

脳科学という新しい分野が出てきてこの種の本の人気が高い。この本の帯に書いてある言葉からどのような本かを書き出してみた。(著者の言葉)「私がクオリアの問題に出会い、脳から心がどのように生み出されるのかという謎に取り組み始めてから、7年が経過した《(推薦の言葉)「数量化できない微妙な物質の質感=クオリアをキーワードとして意識の問題に切り込み続ける気鋭の脳科学者が提示した新しい概念《「近代科学が置き捨ててきた心の解明へと迫る脳科学の最到達点《「最先端脳科学の現場から生まれた画期的論考《など、すべては脳からという「唯脳論《である。

この著者は自然科学・医学だけではなく人文科学の範疇の文学・音楽・哲学などを駆使して脳と心の問題を追及していく。まさに総合科学である。旧来の医学では、例えば体と頭の健康管理のため私がかかっているお医者さんは、物忘れ・聞いてもすぐ忘れる・物の吊が出てこないなど老人病症状の防止に、毎日血圧を計らせ血圧が高くなれば血圧を下げる薬を出してくれる。脳の働きを計量化してその値〈血のめぐり〉が悪くならないようにコントロールしてくれる。クオリアの世界ではない。でも少しはききめがありそうである。

医学が旧来のものであろうと未来のものであろうと、人間は一人1リットルの脳(著者)の中にある1千億の神経細胞が正常に働いて知識や判断、感情や意識、愛や優しさ、見たこともないものの想像、気高い思想と行いとを合わせ持って生きている。これには驚くほかはない。どうして人間の脳の中に全世界を宿したものがつくられたのか。

これを考えると、神様が人間をつくったという単純素朴で深いところへ帰っていく。

(2006年5月号)