サミュエル・ハンチントン 『文明の衝突』
堤 毅七年前に日本で翻訳出版された米ハーバード大学国際政治学者のこの論説は、五百頁の大冊故、世界を七つの文明に分けて冷戦終結後の「文明の衝突《を予想した力作であると要約で理解して来たが、遅蒔きながら夏休みに通読して目から鱗の落ちる感がした。
(1) 湾岸戦争、特に2001年9−11以後の西欧対イスラムの対立をフオルトライン(領土が文明間の断層線をまたぐ分裂国家)というユニークな考察を交えて示唆している。
(2) 日本文明を単独で認めてその特異な孤立性及びその将来に詳細に言及しているのに驚かされた。以下抜粋すれば
a. 日本文明は高度に排他的であり日本独特な文化を共有する国はない。日本は他のどんな国とも密接な関係をもっていない。
b. 日本は有色人種で最初に近代化に成功した国家でありながら西欧化しなかった(この点言い過ぎか?)世界的に最も重要な国である。
c. 日本の近代化が革命的な大激動を経験せずに成し遂げられれたこと。
d. 他国との間に文化的なつながりがないことから日本は難局に当たって他国の支援をあてに出来ない。一方で他国に対する支援責任がないので独自の権益を思うがまま追求できる。
(3) 近未来の日米・日中関係にも敷衍し日本は米国の指導力が低下した場合は中国と手を結ぶことになろうと推測している。〔中国の将来楽観視 か?〕日本は明治以来英、独・伊、米という最強国との提携(バンドワゴニング)を、続けてきた。
(4) 九年も前に国連安全保障理事会の改造問題にも彼なりにラテンアメリカ、アフリカ、イスラムの主要文明代表を含む理想的提案を主張しているのも先見の明がある。
最後に9.11米同時多発テロを事前に予想し現在でも一読の価値がある本書を皆様に是非推薦したい。そして21世紀日本の将来に思いをめぐらせて頂きたい。
(2005年12月号)