遠藤周作 『イエスの生涯』
田坂 宏豊田静太郎さん推薦の遠藤周作著『イエスの生涯』という読書会の本命が出てきたので、男女5人ずつ計10人の参加者に大柴先生が加わって全員発言の賑やかで熱心な会になった。
この本は、これが書かれる少し前に発見された死海文書をふまえての歴史的客観性と、著者遠藤周作の信仰とが相俟って私達には納得しやすい「人としてのイエス伝」になっている。さらに特色として、裁く神でなく日本人に分かりやすい許す神、救う神(母なる神)の性格を強調している。遠藤はイエスの一生を「永遠の同伴者」として、弱い者、悲しむ者、病める者、小さい者と共にいてくださる方であったと表現している。
イエスの生涯は、英雄的でもカリスマ的でもなく無力であり、更にその最期はローマ帝国からユダヤを救う王であることを望んだユダヤの民の誤解によって惨めな死を十字架の上で遂げたのであった。この本では、イエスの苦難と十字架の死に全体の頁の半分をさいている。この段階では人間イエスの死までが書かれており人類の救い主キリスト(メシア)の文字は出てこない。無力に死んだイエスが神の子キリストになるのは、『キリストの誕生』(クリスマス物語ではない)という、弱虫だった弟子達がイエスの死後に強く信念のある者に変えられた謎解きを書いた本の中で明らかにされる。『イエスの生涯』はこの本と合わせて一対であり両方を読んで初めて全体が分かるので、次回2月の読書会でこれを取り上げることにした。
イエスの十字架の死は次のいのちへの出発点となる。イエスの復活がなければこのことは起こらないはずであった。イエスの復活は簡単に読み過ごす物語や適当に理由付けされた出来事でないことを私達は知るべきであろう。私達が読書会で取り上げて話し合った本書中の著者の言葉「事実でないが真実である」は、イエスの生涯の出来事を読みとる時の重要な言葉として心に残った。
(2005年 3月号)