綿矢りさ 『蹴りたい背中』 芥川賞作品
仲吉 智子高校一年生の女の子が主人公。テンポ良く、日常生活が淡々と独特の心理描写で、流れていきます。読後感を「カメラのレンズを通して自分自身を見ている」と上手い表現をした方がいますが、まさしくその通りで、一寸、乱暴な小説の題名が、どんな場面に意味を持ってくるのかと興味をそそられながら読みました。実験室の様子など、なつかしく高校時代を思い出したり、部活の部屋の汗臭さまで伝わってきそうで、三、四時間で読んでしまいました。途中で止めてしまうと、主人公の心理的な動きに、ついてゆけなくなるというのが正直なところでしたが。話は、実験のための班づくりで、まだ決まらぬ男女二人の齊斉と、友達が出来ていない二人が同じ班に入れられるところから始まるのですが、主人公は時間をもてあまして、プリントをさいていて、又、彼は洒落たOLが愛読しそうなファッション雑誌を、みつからないように眺めて時間をつぶしている変な奴として登場します。
読書会で、ある方が、「昔は恋愛を三回やったら恋愛小説が書けるといわれていた」と言っていましたが、この中の恋愛は実に軽やかに、一体これは何だろうといった感じで始まりますが、私はしっかり見おとして読んでしまった一人でした。「蹴る」という行為は、”お行儀が悪い”とか、”許せない!!”などと言っている場合ではないようです。
(2004年7/8月号)