「読書会ノート」 養老猛司『バカの壁』文春新書

養老猛司 『バカの壁』 文春新書

豊田静太郎

 

人間の頭の中には入ることを止める壁、著者(養老孟司氏)の言うところの「バカの壁」が存在し、これはその人の年齢、経験、学問等によって大きな差異のあることが述べられている。

分ったような分らないような気持で読み終りましたが、全体を通して著者が一貫して訴えたかったものは何であったのか、いぜん分らない思いでいます。著書の作りが著者の独白を編集者が文書化したという方法にあったかとも考えられます。以下、各章において成程と思われたいくつかの例を記します。

「教育の怪しさ」の章で、自分は正しいと思っているバカが一番困ると述べられています。戦前の一部の陸軍青年将校、戦後の総評などがその例で、これに類するものは今も毎日の新聞紙面に報道されていますが…。

「一元論を超えて」の章で、働かないでも食えることイコール理想の状態ではないことが歴然と見えてきたとのことをホームレスを例にとって述べられています。では我々は健全な姿をどこに求むるべきか、ここでは、問いかけもなされています。

読書会でも話題になったが日本人は自国が外国の目にどう映っているかをひどく気にする。外国人の言うことをむやみに有り難がるのではなくその真贋を見分けることが必要であるが日本人の目から見た子供を危険から守る時の親の姿勢の差、日本蜜蜂と西欧蜜蜂の行動の差等大変ユニークな視点が例示されている。

「個性を伸ばせという欺瞞」の章では、会社でもどこでも組織に入れば徹底的に共通了解を求められるにも拘わらず、個性を発揮しろと言われる矛盾があるのではと述べられています。これについては我々日本人は無意識の中にそのことを理解していると考えますが…。

終りに、多神教とも言うべき日本の土壌、文化の中に生活している我々キリスト者としては、時にこの「バカの壁」を乗り超えて考え、そこで行動すべきことも必要と思わせられた書でもありました。

(2004年3月号)