イヌ(犬)   石垣 通子

 犬は「人の最良の友」と言われる今日、こと聖書に関する限り、どの箇所を見てもほとんど良い評価を受けていない。又こんなに羊が出て来るのに聖書の世界には牧羊犬がほとんど姿を見せない。羊の前を歩くのは羊飼いで有、羊たちは彼の声を知っているので、その後をついて行くというのである(ヨハネ10章)。

 そしてイエス自身も旧約の先駆者たちに劣らず、犬を過酷に扱っている。山上の説教では「神聖なものを犬に与えてはならない」(マタイ7:6)と言う。さらに「子供たちのパンを犬にやってはいけない」(マタイ15:26)。

 少しましな表現としては「犬でも、生きていれば、死んだライオンよりましだ」(コヘレトの言葉9:4)。サムエル記上にも「わたしは犬か…」とゴリアトがダビデに言い(17:43)、ダビデがサウルに「イスラエルの王は誰を追って出てこられたのでしょう。…死んだ犬、一匹の蚤ではありませんか」(24:15)。

 又、外典「トビト記」では、 トビトの小犬が何度も顔を出す。若い主人の後について行く忠実な姿である(5:16、11:4)。

(95年10月)