『聖書』の約百種の植物は、前回の表のように食用としての果樹やムギ等の農作物、衣料用繊維アマ、次いで香辛料(コショウソウ、コエンドロ、ケーパー、ヒソップ)が栽培植物として登場します。また、地中海地域の大規模な交易によって、遠方から沈香、紫檀、黒檀、没薬、乳香、肉桂等の香料、木材が外来品として登場しています。ナルドはヒマラヤ山中の高山植物帯にまれにしかない植物だそうです。
『万葉集』は、ハギ、サクラ、ススキ、のような日本自生植物や、上位三種のウメ、タチバナ、ヤナギその他、数は少ないけれど、イネ、アワ、ムギ、ヒエ、マメ、ダイコン等々の渡来後栽培された植物が一渡り登場し、その数およそ一六六種全てが土着したものばかりです。
香辛料、香料は少なく、染料植物は、アカネ、ムラサキ、ツルバミ(クヌギ)クレナイ(ベニバナ)、ハリ(ハンノキ)、ハジノキ(ヤマハゼ)、ヤマアイ等数多く、植物と生活のかかわり方、関心の持ち方に大きな差があった事が判ります。
栽培植物学の中尾佐助先生は、これは主として宗教的散文に対し、叙情詩集という説明は原因の一部であって、当時の日本人がどれほど植物を具体的によく知り、自然に馴染んだ生活意識を持っていたかを今日に伝えていると言われています。