クリスマスツリーの意味  賀来 周一

今日われわれが目にするようなクリスマスツリーは宗教改革後の産物であって、ドイツから盛んになった。当時もみの木を部屋のなかに立てて、ビスケットや林檎を吊るしたという記録がある。またシュトラスブルグではツリーに色紙でつくった飾りものや砂糖の塊、パンを吊るしていた。ツリーに蝋燭を灯す習慣は宗教改革者ルターによると言われている。むさしの教会では、しばらくの間、ドイツから蜜蝋の入った蝋燭を送ってもらって、リンゴや藁で作った天使や星や十字架をもみの木に吊したこともあった。蝋燭はやや危険ということで今ではリンゴを飾ることにしている。

教会でもみの木をクリスマスツリーに使うのは、常緑樹が永遠の命を意味するからである。それは創世記二章に記された命の木に根源をもつ。命の木とは人間の命の根源は神にあり、人は自在に命をコントロールできないという意味を持っている。

また聖書にはエデンの園の中央には命の木に加えて、善悪の知識の木を生えいでさせられた。そしてその木から決して取って食べてはならないと命じられたとある。善悪についての絶対的な判断もまた神の手に委ねられているのであって、人間にはそのような判断はできないというのである。しかし、アダムとエバは神のようになるという蛇の誘惑に負けてその実を食べてしまう。その結果人間の物事の善し悪しについての判断について、あたかも絶対者である神のように主権を振り回す存在となった、そこに罪の根源があるというのが聖書の主張である。罪というと悪いことをしたという印象で受け止めるが、聖書でいう罪の根源的な意味は、人間が神になり代わって世界の主人公になることを意味する。リンゴをツリーに飾るのは、それによって現代人はアダムやエバのように世界の主人公になろうとしていないかという警鐘を鳴らしているのである。

クリスマスの訪れを告げるアドベント(待降節)になると家の扉にヒイラギなどを円く環にしたアドベント・リースを飾る家庭もある。ヒイラギもまたクリスマスツリーと同じく常緑樹に象徴された変わることのない命の永遠性を表している。また刺のあるヒイラギの環は十字架にかけられたキリストの冠を表し、その赤い実はその血を象徴している。今日ではアドベント・リースはクリスマスを迎えるにあたっての装飾になってしまったが、本来の意味からすればキリストの死と永遠の命の象徴ということになる。

ヨーロッパ、ことにドイツから北欧にかけてのクリスマスの時期には、家庭のみならず、空港や銀行に至るまで、いたるところに蝋燭が置いてあるのに気付く。 この時期、北欧は寒くまた昼間も短い。長い夜の暗さのさなか、蝋燭の灯は太陽を表し、キリストが世の闇を照らす光であることに象徴した。北欧ではこの時期ユール・ログと言われる大きな薪を燃す習慣があった。ユール・ログはクリスマスの前日から一月六日まで暖炉で絶やさず燃す習慣がある。もっとも太陽が弱くなるとき、蝋燭の火と同じく太陽の熱と光の回復を象徴するものであった。このユール・ログをそのままケーキにしたのがフランス生まれのブッシュ・ド・ノエルである。

(むさしの教会だより 2012年 11月号)