井リョウ著「何 者」       今村 芙美子

大学5年生の拓人は就活仲間でもあり、ツイッター仲間の5人の友人がいる。それに劇団の一年先輩のサワ先輩がいる。ちゃめっけたっぷりの光太郎とはルームシェア生活をしている。不思議なことにここでは光太郎の日常の生活態度の批判、劇団の仲間キンジへの批判、瑞月の留学仲間であり、拓人の上の階に住んでいる理香と隆良への批判が綴られていく。就活に必要なプリンターを借りることもあって自ずと理香の家に皆集まった。時には光太郎の手料理も出る。

意外なことに就活に批判的な隆良も就活を始め、いい加減な光太郎は出版社を希望している。拓人はサワ先輩に「ツイッターには本当のことは書かれていない」とぼやく。先輩は「ツイッターの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを想像してあげろよ。ギンジの劇場にも足を向けろよ」と拓人の冷たい気持ちを忠告する。拓人は就活で内定がなかなか得られなかった。何故か拓人が携帯を持つ時、理香の目線にビクビクした。

 やがて瑞月も光太郎も内定が決まり、お祝いの乾杯をサワ先輩のアルバイト先で行った後、拓人は理香にプリンターを借りに行かねばならなかった。隆良が留守で理香と拓人だけだった。パソコンのマウスを動かす背後で、「内定していないのは私達だけだね」「私ずーっと読んでいたんだよ、あんたのもう一つのツイッターのアカウントNANIMONO」。その声はもうオブラートをしていない理香の声だった。「あんたは誰かを観察し、分析することで、自分じゃない何者かになったつもりなんだよ」「自分は自分にしかなれなし、痛くてかっこ悪い今の自分を理想の自分に近づけることしかできない」「あんたの心の内側は相手に覗かれるよ。どの会社だって欲しいと思うわけじゃない」。いつしか理香は自分にも向けて言っていた。

数日後、拓人が面接官に答えていた。「自分の短所はかっこ悪いところです。長所は自分がかっこ悪いと認めることができたことです」。
 ツイッターの時代であろうと、青春は友達と直に、あふれる言葉で語り明かす思い出を作れる時であると私は思った。