本書は本年度芥川賞の受賞作である。発刊当初から異常な売れ行きだ。単行本で250万部、月刊『文芸春秋』(受賞作を掲載)を含めるとその販売総数は300万部を越え、今や社会現象である。
これには諸々の要因があると思うが、まずは著者が又吉直樹というお笑い芸人だという点であろう。(又吉は友人とピースという漫才コンビを組んでおり既に相当の知名度がある。)更なる要因としては、一般に余り知られていないお笑い業界の実態を本書が描いて見せてくれた点だと思う。
さて、話は熱海の花火大会に余興として呼ばれた芸人の徳永と神谷が知り合い、徳永が業界で先輩格の神谷の弟子になるところから始まる。
芸人の先輩と後輩との交流を通し、寝ても醒めてもお笑いのネタを考えている芸人達の苦闘の記録である。話は主として徳永の語りで進んでゆくが、会話の面白さとそのテンポは絶妙である。
ところで私の感覚ではお笑い芸人は「ビートたけし」や「渥美清」のように浅草という下町で生まれ、長い下積みをへて世間
に出て行くものとの先入観があるが、近年の芸人は芸能プロダクションに属し、事務所が設営する社内ライブで勝ち残り、テレビ界へ進出という足取りのようである。また、彼等の生活の場は浅草のような下町ではなく、吉祥寺などシャレた住宅街で、私のような古いお笑いファンとしては大いに違和感をもつところである。
だが、現代の芸人達は常に激しい競争にさらされ、浮き沈みは目まぐるしく昔とは違った厳しさがあるように思える。