たより巻頭言「W杯・笑顔の包容力/抱擁力」 大柴 譲治

ワールドカップ一色の六月が終わった。関係者のご尽力に心から感謝したい。一つ一つのゲームにドラマを感じ、その展開に一喜一憂しつつ、世界最高レベルのプレイを堪能することができた。

 今回は日本がベスト16、韓国がベスト4へと進み、我が家では韓国出身の妻とサッカー少年の息子は大喜びだった。もっとも私自身が一番熱中していたのかもしれないが・・・。私たち夫婦にとっては韓日共同開催ができたことは本当に嬉しかった。日本が引き起こした不幸な歴史を乗り越えて、これを機会にさらに両国の理解と友好関係が深まってゆくことを祈ってやまない。

 見事なパスやシュートがあり、唸らせるようなディフェンスがあった。胸で十字を切る選手もいたし、ゴール後に祈りを捧げる姿もあった。数々の名場面が心に残った。中でも印象的だったのは三位決定戦。試合後に勝ったトルコと敗れた韓国の選手たちが互いに肩を組みながらサポーターたちに挨拶する姿だった。「地には平和!」 私は思わずそう祈った。悲しいニュースが多すぎるからである。

 それにしても日本チームを率いたトルシエ監督と韓国チームを率いたヒディンク監督の姿は対照的だった。二人とも監督としては有能で、選手たちを信頼し、よき人材を育て、すばらしい結果を残した。敗戦の弁では共に「選手たちを誇りに思う」とも語っていた。しかしその選手との関係は違っていた。トルシエ監督はニコリともせずにむしろ選手の競争心をあおるようなやり方で接していた。また試合中に笑顔を見せた選手を批判していた。選手とはあえて距離を置いたのである。

 ヒディンク監督もなかなかの猛者で試合中は攻撃的な采配をふるっていた。しかしベスト8を決めるスペイン戦。0対0で迎えた最後のPK戦直前にゴールキーパーにニコニコ笑いながら話しかけていた姿には驚いた。ああいう場面ではなかなか笑えるものではない。さすが4年前のフランス大会でも母国オランダをベスト4にまで導いた監督である。ヒディンク監督の抜群の包容力に感心した。そこでは監督と選手は一体だった。

 両監督の姿を見ながら、やはり人を育てるのは、最後は笑顔の包容力/抱擁力の方ではないかと思った。そこにも人間のドラマが見えてくる。サッカーもなかなか奥が深い。