2007年11月京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授らは科学雑誌「セル」にヒトiPS細胞の成功を発表した。この研究により山中教授はノーベル賞を昨年受賞したことは記憶に新しいことである。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは「人体の細胞を原料として体のいろいろな種類の細胞になれる細胞」ということである。つまり自分の例えば皮膚の細胞から作られたiPS細胞で心臓の心筋細胞や肝臓の細胞を再生することが可能になるということである。また脊椎損傷で神経を損傷した場合でも、iPS細胞で治療できる可能性がマウスを使った研究で報告されている。つまり再生医療の分野が大きく開かれたことになる。
人間はいろいろな種類の細胞、約60兆個から成っている。例えば皮膚、毛髪、血液、小腸などは損傷した細胞や、ふけや垢などのような寿命を終えた細胞を補充するなど新陳代謝をしている。しかし脳とか脊髄となった神経細胞や心臓の心筋細胞などは細胞分裂を終えた細胞で、もう自ら補充も補修もができない。そのため心臓の
治療に時として心臓移植が必要になる。しかしiPS細胞によって移植しない治療の可能性が開かれたと言える。また自分の細胞から作ったiPS細胞を使うから拒絶反応もないと考えられる。
どんな細胞にもなれる万能細胞としてはヒト受精卵の細胞分裂でつくる胚性幹細胞(ES細胞)がある。このES細胞は受精卵を用いることから倫理的、宗教的問題があるがiPS細胞は成人の細胞を使って万能細胞になったものであるから、このような問題がない。このこともiPS細胞の基礎研究や医療への応用研究が世界中でされる理由でもあろう。
治療法のない難病に苦しむ人や臓器移植による治療を待つ人には希望になる。しかしiPS細胞による再生医療実現には、iPS細胞の安全性、iPS細胞化や培養法の改善等々の技術的課題がある。臨床研究で最も早いのは理化学研究所が目指す加齢黄斑変性症治療への応用で、今年から来年の実施が目標にされている。
iPS細胞は神が与えてくれた万能細胞とも言える。多くの人の病を癒す手段を与えてくれるものとなるよう祈りたい。